和風居酒屋の個室。照明は薄暗く大人な雰囲気。良いじゃないの。
今日は大学時代の友人に誘われて男女3対3の6人で飲み会だ。少し遅れて女性3人到着。みんな素晴らしい容姿だ。今日は楽しくなりそう!テンションが上がるのを必死に抑えつつ冷静を装うも笑顔が出てしまう。女性3人は同じ会社の同僚で関西から東京に転勤してきたばかりだそうだ。東京ではそれぞれ違う勤務先になったらしい。
「休みの日は何しているの?」目の前に座った「関西女子1」に質問してみた。
「まだ東京に来たばかりで色々出掛けたいけど、どこが良いのかわからないんだよね」
私も地方出身者だから、東京に来たばかりの頃は期待と警戒心を抱いていた。気持ちはよくわかる。
「そうだよね」相づちをして同意した。
そしたら「関西女子1」は私の方を見て何かを待っている様子。ん?何を待っている?
ちょっとして「関西女子1」は何もないことを悟り、待つ姿勢を解除した。
少し気になったけど、また何事もなかったように雑談を開始。
「関西女子2」が「関西女子1」を「この子、丸の内OLだから」と言ってくる。まるで「丸の内OL」がブランドでもあるかのように。関西からしたら丸の内で働くというのは、キャリアウーマンの象徴なのかもしれない。男性陣が反応に戸惑っているのに気にせず「関西女子2」は何度も「丸の内OL」を押してくる。「丸の内OL」ってそんなにブランド感はないよと教えてあげたかったけれど、指摘をして場の空気が冷めてしまうのは良くないのでやめておいた。
話題を変えるために「関西女子1」と「関西女子2」に聞いてみた。
「仕事で東京と関西の違いってあるの?」
「標準語が冷たく感じる」と「関西女子2」は言う。
「この前上司から注意されたんだけど、確かに冷たい感じがした」と「関西女子1」が続いた。
「そっかぁ、なるほどね」と相づちをした。
そしたら今度は「関西女子1」と「関西女子2」が共にこちらを見て待っている。
「ん?また?」
そしたら、2人は「何もないんかい!」とツッコまんばかりに、同時に待つ姿勢を解除した。
どうやら「そうだよね」や「なるほどね」の相づちのあとに話の続きがあるのを待っているようだ。なのに、話がないので「なんやねん」という少し期待を裏切られた感じになっている。
関西は「そうだよね」のあとに何かエピソードトークをするのが普通なの!?
そもそも私はエピソードトークが苦手だ。私が一番恐怖を感じる問いかけは「何かおもしろい話して」である。そう言われても頭が真っ白になって全く思いつかない。少し考えるフリをしたあと降参すると相手は大体ガッカリする。エピソードトークをできない自分の不甲斐なさに落ち込むことばかり。
そんな私は、関西女子たちがエピソードトークを待っているのだと気づいた瞬間から、相づちすらもできなくなってしまった。そして会話にもあまり参加できなくなる。
もうこうなったら飲むしかない。「赤ワインおかわり!」
赤ワインはヤケになって飲むものではない。楽しい飲み会でエピソードトークが話せない自分がみじめに思えた。数杯飲んで気持ち悪さを感じ始めた頃に事件が起きた。
「鍵がなくなっちゃった」突然「関西女子3」が言った。「関西女子3」が入れた靴のロッカーの鍵がなくなったのだ。
最初は女性陣が一丸となって自分たちバックなどを調べていた。しかし見つからないので「男性の荷物も調べてほしい」と関西女子たちが言ってきた。
私もバックの中を探そうとしたが、気持ち悪くてそれどころではない。トイレに行って吐いてしまった方が楽になるかも。どうすれば今の状態を改善できるかで頭がいっぱいだった。そもそも男性陣が先にお店に入っていたのだから、私のバックに入っているはずがない。私の友人2人は念のため自分のバックを調べている(良いヤツらだ)。
席の終了時間が来て会計も済ませるも、まだ鍵は見つからない。私は気持ち悪さと格闘しながら、そそくさと帰り支度をして、店の入り口付近にあったベンチに座って鍵が見つかるのを待っていた。
どうしても鍵が見つからないらしく「関西女子1」と「関西女子2」が私のところに来て「バックを調べさせてほしい」と有無を言わせない様子で言った。
「ええ、どうぞ」。力なく言った。あるはずがない。
「関西女子1」と「関西女子2」は私のバックを調べてすぐに「あった!」と言って「関西女子3」に急いで報告に行った。
「え?ウソだろ!?」
みんな一件落着して個室から店の入口にやってきた。犯人を見つめる目線が痛い。
「なんで俺のバックに入ってたのかなぁ?」意識が朦朧としながら言った。でも、誰も何も言ってくれなかったので、その言葉は独り言になった。
翌日、お詫びの連絡を女性たちに入れるも誰からも返信はなかった(そりゃそうだよね)。
関西女子とお付き合いするにはエピソードトークを話せないといけないらしい。私には一生ムリかもしれないな。
コメント