自己紹介をしなかったばかりに大惨事になった話

コミュニケーション体験談
コミュニケーション体験談

気合と緊張が入り混じった気持ちでいた。東京都港区の飲食チェーン本部で商談だ。以前名刺交換していた飲食チェーンの常務取締役に連絡をしたら、人事担当者から連絡が来て商談のアポをとることができた。

飲食店というのは慢性的に人手不足で猫の手も借りたい状況だから、弊社が紹介する外国人労働者は即戦力になる。飲食チェーン本部は田町駅から10分弱歩いた雑居ビルの中に入っている。

こじんまりとした部屋に通されて人事担当者を待つ。お茶も出てこないのか、と思ったけれど、まあいいや。予定時間よりも5分以上遅れて、スーツを着た2人の男性が部屋に入ってきた。名刺交換をして、メールでやり取りしていた担当者を確認。担当者は気の弱そうな小太りな40代前半の男性。そしてもう一人は担当者の上司だ。上司も40代前半くらいで、顎に沿ってひげをはやし「猿の惑星」に出てくる悪役のボスザルのような顔をしている。

挨拶もそこそこに、本題を話始めることにした。常務取締役には事前に概要を話をしていたし、ここで無駄話をするのも良くない(単に雑談が苦手ということもある)。

自己紹介を省いて紹介できる外国人について説明を始めた。でもこの判断が良くなかった。説明をしてすぐに異変に気づいた。説明に対して2人とも相づちや頷きがない。相づちや頷きがないと話しにくいというのは聞いたことがあるが、本当だな。上司にいたっては相づちどころか興味がなさそうな態度だ。

話しにくい中、一通り説明を終えて、「どうですか?」と聞いてみた。

ボスザルは無表情のまま「どうって言われても」。そして続けた「そもそも、あんた誰なの?うちの常務と連絡をとったみたいだけど、我々はあんたの事全く知らないんだけど」

あんた? 初対面の仕事の打合せでタメ口で話されたことがなかったので困惑した。

「まずは自己紹介をするのがスジじゃないの?」

なるほど、常務からは特に説明がなかったわけか。それは失礼しました。「確かにその通りですね、申し訳ありません」

会社の概要や常務に連絡をとった経緯などを説明した。

それでもボスザルは「よくわからないけど」と一言。「何がよくわからないの?わからないなら質問せんかい」と思ったけど冷静な表情を崩さなかった。せっかくの商談の機会をゲットしたのだから頑張らねば。

ちらっと小太りの担当者を見ると怯えた表情。この商談前にボスザルに怒られたのかな?と思うくらい。ボスザルに対して意見を言うようなことはないらしい、いわゆるイエスマンだ。

「もう人材紹介会社は既に使っていて、そこは海外の日本語学校と連携して何百人も紹介できるってこの前も説明受けたよ」と「おたくのような小さな会社は相手にしないよ」と言いたげなそぶりで言ってきた。

「弊社はまだ始めたばかりなので、海外との連携はこれから、、、」

「始めたばかりとかってウチに関係あるの?」と私が言い終わらないうちにかぶせてきた。

「いや、そうでなくて、、、」

「あんたのところの事情はウチには関係ないんだけど!」

ボスザルは聞く耳を持たず、鬼の首を取ったかのように語気を強めて言ってきた。この猿とコミュニケーションは不可能らしいと気づき始める。

もう一度反論をしようとしたけれど、火に油を注ぐことになってしまいかねない。反論するのを諦めて、「そうですね」と言うことにした。自己紹介を怠ったからってこんな風に攻撃する人がこの世の中にいるのかと驚き!。

「外国人とはいえ人材を雇うのは金がかかるんだよ!」「ウチの常務が何を言ったのか知らないけど俺は承知してないから!」ボスザルは今や叫んでいる。

「こんなんじゃ話にならなねぇ!、なぁ?」といきなり小太りの担当者に同意を求める。担当者は「ま、まあ、そうですね、、、」と蚊の鳴くような声で答えた。このイエスマンめ。

「私から『話にならねぇ』と言われたと常務に話してもらっても結構だから」と伏し目がちに言うボスザル。その様子からボスザルは常務とうまくいってないようだ。どうやら自己紹介をしなかっただけで激高しているのではなさそう。後から確認すると、常務から直接連絡を受けたのは担当者で、ボスザルをとび越えてしまったらしい。ボスザルはそれが気に入らないようだ。そのイライラを自己紹介しなかった私にぶつけている(ホント困る)。

個人的な恨みを晴らしている上司の横で小太りの担当者はうつむいたままだ。常務から直接連絡を受けて商談をセッティングせざるを得ず、ボスザルに対しバツが悪いのだろう。

こんな状態では商談どころではない。「では、改めて出直してきます」と笑顔をつくろうと思ったけれど、顔がひきつっているのがわかる。これ以上攻撃されちゃたまらない。

そそくさと雑居ビルをあとにした。もうここに来ることはないだろう。

今回は散々な商談だったけれど、どんな商談の前でもちゃんと自己紹介したほうが良いと教訓にしよう。

そして映画「猿の惑星」はしばらく見るのやめておこうかな。

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