この独特な匂い。シャンプーやパーマ液、整髪料の匂いが交ざった、でも決して不快ではないこの匂い。2か月ぶりに散髪に来た。そのヘアサロンは2階建ての建物の2階にあって1階はオシャレな焼肉屋。
常連というわけではないけれど前にも来たことがある。指名しているスタイリストがいるわけではないが、価格がリーズナブルなので数回利用している。
ここで私はあるチャレンジをしようと気持ちを強く持っていた。店員にアイコンタクトをして、予約した旨を伝えよう。たったこれだけのことが私にとっては大きなチャレンジだ。
私は自信があるほうではない。話を聞くときは相手の目を見ることができるけど、自分が話をするとなるとアイコンタクトができないたちなのだ。話すことに自信がなく、話しているときに相手に見られると恥ずかしくなってしまう。小さい頃からシャイな性格は大人になって幾分マシになったと思うけれど、恥ずかしい気持ちはなくならない。目を見て話すことは私にとって挑戦であり、強く意識していないとできないことなのだ。
調べたところ、アイコンタクトをして話をすると相手に「熱意が伝わる」、「自信があるように見える」、「安心感を与える」らしい。なんて良いことだらけ。
自信のない私には自信があるように見えることは、まるで魔法だ。ただ30年以上生きていてアイコンタクトして話をするということをほとんどしたことがない。なので少しずつアイコンタクトに慣れていく必要があると考えた。
そこで第一歩としてヘアサロンの店員にアイコンタクトしながら「予約をしていた広瀬です」と伝えようと思い立った。お客様と店員では圧倒的にお客様の立場の方が上。だから自信のなさはカバーできるはず。訓練するにはもってこいだ(のはずだった)。
お店の中に入ると、受付にはカリスマ美容師に憧れてこの世界入りましたといった風情の店長らしき男性とアシスタントと思われる愛想のよい女性がいた。「いらっしゃいませ」2人は私に気づいて言った。
「19時に予約しました広瀬です」
「はい、お待ちしておりました」
きちんと伝わってカリスマ店長もアシスタントも笑顔で対応してくれるはずと想定していた。
目線が下がらないよう我慢しつつ、店長とアシスタントと目線を均等に向けながら言った。
「19時に予約してま、、、」
そこまで言ったら、なんと2人とも目線を下にそらしたのだ(全くの想定外)。あれ?何か変なことを言ったかな?
そっか!予約者名を確認するために視線を予約表に移したのか。最初にそう思ったけれど、彼らの手元に予約表らしきものはない。
ものすごく不安になる。
目線をそらすのは「相手に興味がない」とか「相手に隠し事がある」表れだそう。
店員がお客様に興味がないとは考えにくい。ということは、私に何か隠し事でもある?それとも、私がアイコンタクトするぞと気合いを入れすぎて、目が血走っていて恐怖を感じた?
そして気づく。私がアイコンタクトが苦手なのは、こんな風に相手に目線をそらされることを恐れていたのだと。相手がつまらなそうな様子を見るのが耐えられなかったのだ。
だとしたら、アイコンタクトして話ができる人って精神力がすごすぎる。
相手の態度が気にならないってことでしょ? 自分が話をしたい気持ちの方が強いのか? 動じずに話し続けられるってこと?
そんな強靭な精神力がほしい。
そもそもお客様を不安にさせる店員たちってどうなのよ。いや、自爆しているだけだ。想定外すぎて色々なことを考えてしまった。
そしてこれは私にとって、とても大きな発見となった。
ずっと自分に自信がないだけだと、自分の内側の問題だと思っていたけれど、他人の評価を気にしてアイコンタクトができなかったのも一因ということがわかった。
自分に自信がないくせに、相手からは悪い評価をされたくない。そういう私はアイコンタクトなんて容易にできないぞ。
アイコンタクトのメリットはたくさんあるけれど、私の性格では結構大変だというのがわかった。自分の自信のなさに打ち勝つ勇気だけでなく、相手が目線をそらしても動じない覚悟が必要らしい。
お客様と店員という圧倒的に立場が有利な状況でこんなに動揺してしまったのだから、友人や先輩、上司などの年長者と話すときのアイコンタクトはとても過酷なものになるかもしれない。
アイコンタクトするには、まだまだ訓練が足りないのだ。そうだ!今度は飲食店で店員にメニューを伝えるときにアイコンタクトするとしよう。
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