直接言わないことがトラブルになってしまう話

コミュニケーション体験談
コミュニケーション体験談

自宅から郵便局まで自転車で5分ほど。フリマアプリで売れた小さな照明を発送するために、小さめの段ボールに緩衝材も入れて準備万端。雨が少し振っているけど、今日が発送期限だから必ず今日中に発送しなければ、評価にひびいてしまう。段ボールを小脇に抱え自転車で出発したら、電話が鳴った。取引先からの仕事の電話だ。すぐそこにスーパーマーケットがあり、そこに屋根付きの駐輪場を発見。1時間ほど前から小雨が降っているので屋根付きの駐輪場は大人気。雨に濡れずに自転車を止めたいのは私だけではない。1台だけ空きを見つけて止めることができた。雨宿りをさせてもらいながら電話に出ることにした。

取引先と電話でやり取りしていると、小さな子を乗せた母親が自転車で駐輪場にやってきた。私はその母親を一目したものの、特に気にもせずに電話を続けてた。しばらくして少し遠くに自転車を止めた母親が私の近くに来て大声で何かを叫んだ。「へ?」電話に集中していた私は母親が何を叫んだのか一瞬わからなかった。よくよく思い出してみると「どけよ!」と言い放ったようだ。でも私に言っているのか?周りを見渡すと駐輪場には私しかいない。どうやらその母親は雨の中、屋根付きの駐車場に自転車を止められないことに激怒し、悠々と屋根の下で電話している私に悪態をついたらしい。

そのことに気づいたらイライラしてきた。そんな暴言を吐かれるようなことをした覚えはない。ただ屋根の下にいて電話をしていただけ。なんなら、ちゃんと納税もしているし、電車で優先席でなくても見知らぬおばあちゃんに席を譲ったことだってある。私はとても健全な国民だ。思いも寄らないことで攻撃を受けたショックに頭がいっぱいになり、取引先との電話はほとんど耳に入ってこない。考えれば考えるほど理不尽に思えてきた。イライラはピークになり、どんな報復をしてやろうか。母親の自転車のサドルを引っこ抜いて放り投げ、代わりにブロッコリーでもを差してやろうか。

「ねえ、聞いている?」という取引先の一言で我に返る。

「聞いてませんでした」とは言えず、「あとからまた電話します」となんとか取り繕って電話を切った。

「自転車を止めたいならそう言ってくれればいいじゃないか!」場所を譲ってほしいと直接言ってくれれば、お店の屋根に移動して電話するなど、何かやりようはあったはずなのに。郵便局で荷物を発送した後もあの母親への負の感情はしばらくおさまらなかった。

日本人は直接コミュニケーション(直接話すこと、議論すること)が苦手で間接的にコミュニケーションしていることがよくある。かくいう私も直接コミュニケーションは苦手な人種だ。満員電車に乗り込んだときに、もっと奥に詰めてほしいのを体で表現してしまうことがよくある。肘や肩に力を入れて相手を押し込むのだ。こちらとしては「もっと詰めてください」の押し込み。それに加えて「いっぱい人が乗ってくるのだから詰めるのが当たり前だろ。空気読めよ」の押し込みでもある。でも相手からしてみたら、単に肘や肩を使った自分への攻撃でしかない。ムカッとするのも当たり前。そして勃発する不毛な押し合い。これはどちらかの降車駅までまで延々続くことも。こんな経験は腐るほどしてきた。満員電車が嫌いな理由の一つだ。

直接「もっと奥に詰めてください」と言えれば、この手の不毛なトラブルは起こらないだろう。でも言葉にする勇気がないのが正直なところ。そして、直接相手に言ってもし拒否されたときにどうすればいいのだ。対処の仕方がわからない。さらに周りの人からも注目を浴びることになるだろう(恥ずかしい)。色々考えると直接言わずに間接的に伝えるという手段をとるほうが手っ取り早いのだ。

日本人の察しと思いやりは美徳とされることが多いけれど、間接的に案に伝えることでトラブルや揉め事、ストレスになっていることも残念ながら多い気がする。多少空気が悪くなっても、勇気を出して直接コミュニケーションをとったほうが結果として物事がスムーズに進むこともたくさんあるのだろうな。

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